偕成社〈ヒチコック・ミステリー〉5。1976年刊、初版。非貸本。カバーの端に少ヨレ、表面に少スレ・傷。経年のシミ・汚れがかなりあり（本の天地腹にそばかす状のシミ・汚れ、茶ジミの目立つ頁あり）。装丁：井上嗣也、絵：石川賢とダイナミック・プロ（カバー絵のほか、まんがのコマ状の挿絵を多数、本文に添えています。1980年代の後半にソフトカバー装の〈カリフォルニア少年探偵団〉シリーズとして、同じ版元から出し直された際には、石川賢とダイナミック・プロは関わっておらず、これらの挿絵もすべて割愛されています） ＊ウィリアム・アーデンは、隻腕の私立探偵ダン・フォーチュン物で知られる米作家マイケル・コリンズのジュニア小説用ペンネーム 【内容紹介】原題：The Secret of Phantom Lake（1973） 頭のいいふとっちょリーダーのジュピター・ジョーンズ、のっぽのピート・クレンショウ、小柄でねばり強い記録・調査担当のボブ・アンドリュース——この少年三人組が、廃品置場にうずもれたトレーラーを本部に、しろうと探偵として難事件の謎を解くシリーズ。ロバート・アーサーやウィリアム・アーデンなど、複数の作家によって書き継がれており、クオリティも高いが、邦訳はゲームブックも含めて14作で、未訳も多数ある。ちなみに、本書の本文の前には「ヒチコックのおじさんから一言」なる文章が添えられており、物語の締めにもヒチコックが登場するが、版権の関係からか、〈カリフォルニア少年探偵団〉シリーズ版の『幽霊湖の秘密』にはヒチコックは出てこない ジュピターのおじさんのやっている古物再生商会が、カリフォルニアのロッキービーチ沿いにある観光博物館からむかしの航海に使った品物を買い取ることになり、三人組も荷物運びの手伝いに博物館にやってきていた。そのさなかにジャワ・ジムなる黒ひげの小男が現れ、館長に真鍮のかざりのついた箱をよこせとつめよる（画像4参照）。その箱は前日に届いたばかりだったが、男の話によれば、シンガポールで買ったあと、船がサンフランシスコに寄港した際に盗み出されてしまったのだという。一同が問題の箱を見つめるなか、かくしバネじかけが作動し、なかから短剣が飛び出してきて、壁につきささる。それは百年ほど前に海賊がしかけたとおぼしい、東インド諸島の短剣であった。箱のひみつの仕切りのなかには、真鍮の輪のまんなかに赤い石の光る指輪が入っているだけだった。箱はアジール・クイーン号のものだったらしいが、同船は百年ほど前にロッキービーチの沖合いで沈没していた。ジュピターのおじさんは、所有者かどうかも怪しいジャワ・ジムにその箱を渡さず、古物再生商会にトラックで持ち帰ることにするが、そのあとを怪しいフォルクス・ワーゲンがつけてくる。それを見て、「あの古い箱には、なにか、ひみつがあるにちがいないぞ」と、ジュピターはぞくぞくしてくるのだった。ほどなくして、ジャワ・ジムがシンガポールで買ったという話はまったくのでたらめで、半年前にとある婦人がサンタバーバラの古物商に売ったものであることが判明する。 アジール・クイーン号のことを調べに歴史協会に向かったボブは、そこのジェイ教授から、船が難破した際の状況を聞くと同時に、沈没船には宝ものが積んであったといううわさがあり、当時もそのあとも、たくさんの潜水夫が宝ものを捜したものの、当時のありふれた硬貨くらいしか見つかっていない、という話を聞かされる。沈没後に生き残った船乗りのひとり、アングス・ガンは後年、アジール・クイーン号の船長を含めた四人に殺されてしまうが、日誌をつけており、その子孫が最近になって、くだんの日誌を歴史協会に寄付してくれたが、そのなかにはどんなに調べても、宝もののヒントは隠されていなかったという。 アングス・ガンの日誌に秘められた謎、アングス・ガンが妻に送ったはめ絵パズルのような手紙の暗号解読的な興味、アングス・ガンが妻へのプレゼントに用意していた意外なもの、不気味なゴーストタウンとゆうれい湖、霧のたちこめる糸杉の島に出現する、大きな一つ目ゆうれい（画像7参照）、百年前の謎をめぐる雄大な謎解き等々、ジュニア探偵小説ならではの愉しさの詰まった長編。 「あんまりはっきりしているんで、ぼくたちは、それが見えないだけなんだ。ポーの『ぬすまれた手紙』のように、ぼくたちは、いつでもそれを見ているんだ。そして、目の前にあるから、それが見えないんだよ」とボブがいうように、宝のありかはかなり盲点をついている。 ＊受領後はすみやかに「受け取り連絡」をお願いします